わたしをいい人にさせないでほしい

さほど親しくない知人に「いい人だよね」と褒められる機会がそこそこあるのだが、わたしの正体は悪魔なので気を付けてほしい。というか、わたしをいい人にさせないでほしい。

わたしはこう見えて特別人と話すことが好きなわけじゃないし、笑っていても人の話を楽しんで聞いているわけでもないし、待ち合わせ場所や時間を決めるのが得意なわけでもないし、行きたいお店をいつも自分で提案したいわけでもない。

わたしがそういうことをするいい人になってしまうのは、いい人であることを求められたからであって、わたしは根っからのいい人ではない。

ひょっとしたら「いい人であることを求められた」というのはわたしの勘違いで、ほんとうは誰もわたしにそんなこと求めていないのかもしれないけれど、そんな風におもっているとしぬまでいい人をやってしまう気がするので、今回はあえて強気な態度で臨んでみよう。

わたしをいい人にさせないでほしい。わたしをいい人にさせる他人、わたしをいい人にさせる集団、わたしをいい人にさせる環境から、わたしは逃走する。でもいかんせん足が遅いので、どうかお願いです。誰に、あるいは何にお願いしているのかさっぱりわからないが、どうかわたしをいい人にさせないでほしい。

わたしの正体は自由を愛する悪魔なのである。地獄に来た人間を踏み潰すこと、自分の正体を見破れない地上の人間を笑うこと、美味い飯をたらふく食うことが生きがいだ。わたしはわたしを悪魔でいさせてくれる人間たち、あるいはその振りをしている愛すべき生きものたちとともにある。